車は、どんどん南に向かって走って行く

首都高の湾岸線を横浜方面へと

カーコンポから、今、流行の曲が流れている。

良い意味での沈黙が、車内に続いていた。


「あ!・・・海だ!・・・」

紗季が沈黙を破った。

「ああ、もう見えて来ても良いころだよね」

「あー・・・なんか・・・もしかしたら・・・

初めてちゃんと・・・海を・・・見たかも・・・」

「え?!本当に?」

「うん・・・小さい頃に・・・親に連れて来てもらった事・・・ないし・・・」

「そっかー」

「ほんとうに・・・広くて大きいんだね・・・海って・・・」

「うん、大きいよ、ここから世界につながっているからね」

「えー!・・・ほんとに!・・・世界に?・・・」

「うん・・・ここは東京湾と言って、これでも小さいけれど

これから、行こうと思っている湘南の海は、もっと大きいよ」

「へえー・・・そうなんだ・・・これから・・・

あの歌に良く出てくる・・・湘南に行くんだ・・・」

「うん、そうしようと今決めた!

紗季ちゃんが海を見た事ないって言ったから」

「ありがとう・・・」

「なんだったら、ちょっと足だけでも入ってみると良いよ」

「えー・・・ほんとにー・・・良いの?・・・」

「うん、ちょっと途中でタオルとか買うけどね」

「わー・・・ありがとう・・・」


紗季の胸は、また違った意味で踊りはじめた。

まだ見たことも触れたことも感じたこともない

海に行ける!入れる!と思うとテンションが徐々に上がってくる。


子供のように、無邪気に喜ぶ紗季の姿に

一博は小さな幸せを感じていた。