紗季は、好きとは言ったがその事自体が

本当なのか自分の気持ちが分からないでいた・・・。


今、一博に抱いている思いが本当に恋心なのか

彼女の心の中には、恋とか愛とかの文字が無かった・・・。


紗季は、生きる為に身体を張って生きて来た。

文字や言葉よりも、思いや行為なのである。


彼女が首を振ったのは、この事に対してであった・・・。

思わず口からこぼれ出た言葉を打ち消したかったのだ・・・。


「紗季ちゃん大丈夫?」

一博が、紗季の一連の変な行動を気にして問いかける。

「だ・・・だいじょうぶ・・・」

「そっか、なら良いんだけど」

「ねえ・・・一博さん・・・」

「何?」

「ううん・・・なんでもない・・・」

「なんだよ、よんでおいて」

一博がじっと紗季の瞳を見つめる。

なぜだかその視線を感じて、顔を背けてしまう紗季・・・。


けれども、一博の肩に回された紗季の手には

まだまだ、しっかりと力が入っていた・・・。


自分で自分が、自分の心が分からなくなっていた・・・。

今迄は、こうして自分からもキスをして男を喜ばせて

よりたくさんのお小遣いをもらっていた・・・。


けれども、一博とは、そう言う関係ではない・・・。

こんな行動をしても見返りなんてない・・・。

そんな、見返りなど求めずに、紗季はキスをしていた・・・。


身体が自然に動いていた・・・。

日頃の習性だからではない、今日の行為は・・・。


それは、だんだん早くなる心臓の鼓動と

紗季の頬と耳の紅く染まるさまが物語っていた・・・。